タマネギ中毒とネギ中毒になりやすい犬種と赤血球の関係。

2014年04月02日

前回最後に、「中毒に陥りやすい犬の特徴もあります。」と記述しました。今回はそれに関してのお話です。

前回のブログはこちら「犬のタマネギ中毒とネギ中毒について。(治療と印象に残った事)

赤血球の構造によってはタマネギ中毒・ネギ中毒に陥りやすい犬種が存在します。その理由とは?

「ある型 (HK/HG)の赤血球をもつ犬はタマネギ中毒・ネギ中毒になりやすい。(柴犬や秋田県、珍道犬等)
というのが答えです。

以下説明ですが・・・相当マニアックです。読まなくても良いと思います。

① 赤血球内に存在するGSH(グルタチオン)の存在が多い赤血球を「HG型(High グルタチオン型)」と言います。

この型の赤血球を持つとタマネギ中毒・ネギ中毒の傷害を受けやすくなります。

何故ならば原因物質のチオ硫酸化合物はGSHと反応しヘモグロビンを酸化してしまうからです。

たその反応過程でチオ硫酸化合物は「チオール」に変換され別のルートでヘモグロビンを酸化してしまう。二つの経路で傷害されることになります。

② 同様に、赤血球を赤血球内のカリウムの濃度で区別する型があります。

LK型(Low=低、K=カリウム)赤血球か、HK型(High=高、K=カリウム型)型赤血球であるか。

外来種の場合LK型赤血球の個体が多く、日本犬ではHK型赤血球の犬が多いようです。
これは遺伝的な物です。

もともと犬の網状赤血球(赤血球の赤ちゃん)の細胞膜にはNa+-K+ATPaseというイオンの輸送体があります。
(Na+-K+ATPase は1ATP(ATPはエネルギーの単位)を加水分解されると、細胞内のNa+を3つ細胞外にくみ出し、細胞外に存在するK+を2つ細胞内に取り入れる作用があります。)

このNa+-K+ATPaseは成熟赤血球になる過程で消失してしまいます。その結果、犬の赤血球の中身は一般に高Na+、低K+になります。
これを「LK 型(Low カリウム型)」赤血球と言います。

その一方でNa+-K+ATPase を保持した「HK 型(Highカリウム型)」赤血球をもつ犬種が先ほどの柴犬や秋田犬、珍道犬等です。

HK型はLK型よりもヘモグロビンが酸化される度合いが高くなる事がわかっています。つまり中毒のレベルにまで酸化が進む可能性が高くなると言うことです。

※蛇足ですが、HK型は溶血時にカリウムが大量に血管内に流出し、高カリウム血症に陥る可能性があると考えられがちですが、(人の場合はそうのようです。)
しかし、犬の場合は急激な溶血でも高カリウム血症にはならないという報告があります。

<まとめ>
グルタチオンが多い「HG型」とカリウムが高い「HK型」の両方の特徴がある赤血球「HK/HG」を持つ犬がタマネギ、ネギを食べると中毒になりやすい。


日本でタマネギ中毒・ネギ中毒への注意が多く払われている事にはこの事実が背景としてあるのかもしれませんね。そう考えると納得です。

またタマネギやネギを用いた料理が諸外国よりも多いのかもしれません。(個人的な見解です。)

長かったタマネギシリーズがおわりました。画像は・・・こちらはギネス級ですね。タモさん。おつかれさまでした。

長い間おつかれさまでした。

長い間おつかれさまでした。

夜間緊急、日曜祝日も診察対応。日進市の動物病院。アニウェル犬と猫の病院の渡邉でした。

<これまでのタマネギ中毒・ネギ中毒シリーズに用いた参考文献一覧>

村上大蔵ほか.  新獣医内科学. 文永堂出版. 1998. p.725-726

前出吉光. ”タマネギによる家畜の溶血性貧血 : タマネギに含まれる溶血の原因物質とその作用機序”. Journal of the Agricultural Chemical
Society of Japan 69, 1995-07-05 ,p.391

菱山信也ほか. “HK/HG犬のタマネギ中毒による溶血性貧血時の酸・塩基平衡障害”.  日本獣医学会学術集会講演要旨集. 1990-03-01, 127号, p.188

大和修. “血色素尿:タマネギ中毒”. SA Medicine. インターズー. 2001, No5, Vol3, p.17-24

小松智彦. “犬網状赤血球エクソゾーム : HK 型ならびにLK型犬の網状赤血球成熟過程におけるNa,K-ATPaseとstomatinの選択的同時排出機構”. 北海道大学, 2010-06-30. http://hdl.handle.net/2115/43146, (参照 2014-03-03)